2009/1/10
赤点のトランジスタの講義
電気製品を作るとき色々な部品を使う。その中で、電気が通る部品を特に電気部品という。
ところが、電気現象が電子の動きによる事が分かって来たので究極的には電子の動きから
電気現象が説明されることになる。電子が動き回って色々な仕事をするわけだ。その動き回
る道路網が電子回路ということになる。電流、電圧、電界、磁界というような概念で構成され
るような学問の分野が電気工学であり、電子の動きをうまく使っていこうとする学問が電子工
学である。自分が工学の中で、電気工学科を選んだのは、電気に興味があったことに加え
て、これなら飯を食っていけるのではないかという期待もあった。ところが、戦後になって世の
中が大きく動いた。情報化時代の到来と言って良いであろう。これを支えたのが、電気部品
ならぬ、電子部品のトランジスタであったのである。この講義を担当されたのがA教授という
ユニークな先生であった。講義の本題以外にも色々な話をしてくれた。ついつい、自分も本題
以外の方に関心が移り、トランジスタの講義の成績が芳しくなく、追試を受けるはめになって
しまった。自分としては、就職した場合は、モーターや冷蔵庫の類の、即ち専攻の電気工学
が対象とする分野の仕事をすることになるだろうと漠然と考えていた。ところが、就職して配
属されたのがトランジスタ等の部品を製造する半導体部門であった。電気工学科を卒業した
が、卒業研究はエサキダイオードの応用に関するものであり、この研究室は後の電子工学
科の前身となった。エサキダイオードはトンネルダイオードとも言われ、量子物理学のトンネ
ル現象の存在を直接証明した電子デバイスであり、発明者の江崎玲於奈博士はノーベル物
理学賞を受けた。エサキダイオードは電子の動きがトンネル現象に従って起こるという当時
の常識では説明できない不思議な特性をもっていた。いわゆる、駱駝のコブという負性抵抗
をもつ特性曲線も卒研で自分で測定した。しかし、その特性は完全に理論的に説明された製
品の特性であった。問題は玉石混交の実験室の現場で本物を発見する事である。江崎博士
は試作したダイオードの特性を助手にさせたのだが、「もしや?!」というひらめきが無かっ
たらノーベル賞と無縁であったかもしれない。ともかく、当時の最先端の電子デバイスに関す
る研究ができたのは幸いであった。そうして、辛うじて単位をとったトランジスタで飯を食えた
というのも良き師、仕事、時代に巡り会えた縁であったかもしれない。