愛しき古里:十日夜の藁鉄砲
十日夜(とうかんや)とは、旧暦10月10日の夜とのことで、藁鉄砲を撃ち鳴らすという行事が
あった。太陽暦では11月10日頃のようである。藁鉄砲は稲藁に里芋の茎を入れて縄で巻
いて作る。里芋の茎を入れるのは藁鉄砲の重量を増して地面を撃った時の音を大きくする
効果を出すためであったようだ。作った藁鉄砲を持って隣り近所の家を回り庭で藁鉄砲を撃
ち鳴らす。時にはお菓子などをくれる家があり、これも子供の楽しみの一つであったようだ。
ハロウィンのカボチャ提灯と類似している点もある。叩くときのかけ声もあった筈だがよく覚え
ていない。「トーカンヤ、トーカンヤ」と叫んでから、藁鉄砲を「ポン、ポン」と撃ったような気が
する。藁鉄砲で地面を叩くのはその音でモグラやネズミを追い払うためであったようだが、時
期的には忙しい農作業が一段落して今年の収穫に感謝して来年の収穫を願う行事であった
ようだ。この行事も「ポン、ポン」という音が聞こえて、とうかんやかなとふと思って以来、近所
からは消えてしまった。子供に藁鉄砲を作ってやりそれで遊ばせた記憶もない。農業が自然
の運行の支配から独立しつつある時代であり、子供主体の伝統行事も存在意義を失ったの
だろうか。