2009/7/22
空中配線
アマチュアが電気工作をする時はラグ板とかを使った。それも無いときは部品と部品を直接
半田付けをした。空中配線と言ってよいだろう。会社で集積回路を開発する場合、色々な手
法があるのだが、ともかく実際に動く回路を作る事も重要であった。実証にはシミュレーショ
ン等バーチャルな検証が全く及ばない事実の重さがある。動くはずだと思っても動かない理
由なぞ無数にある。そういう動かない理由を全て取り去ると動かせる状態になる。大抵はそう
いう作業のためにブレッドボードという全ての部品を実装した基板を作る。この基板を使って
細かな詰めを行った。ところが、周波数が高くなると浮遊容量とか寄生インダクタンスとかが
いたずらをして発振が起こったり、回路の動作が不安定になって困ったことがあった。これを
解決したのが例の空中配線であった。能動素子であるトランジスタは金属ケースに封止して
そのケースをプリント基板の銅箔面に直接半田付けした。上部に出た足と他の部品の間は
空中で配線した。ある時、見学に来た来客に上司が高周波の集積回路の検討にはこんなブ
レッドボードを使っていると説明した。自分としてはきれいにプリント基板に作られたブレッド
ボードが無いことに何となく気恥ずかしい思いがした。しかし、ショックレー等がトランジスター
動作を確認した装置とかキルビーが作った最初の集積回路のモデルを見ると本当にがらく
たにしか見えない。動かそうとした人が動いたと確認できればその装置の使命は果たせたの
だ。実際に動かすことは十分条件ではないが必要条件なのである。ともかく、大量生産する
ために、たった一台だけ手作りで作られた空中配線のブレッドボードがこの世に存在した事
は確かなのである。