2009/9/11
もてなしの心
庵で思い出すのが茶道である。学生時代に岡倉天心の茶の本を読んだ。お茶もその源流を
辿ると外国からもたらされたものだが、喫茶の風習の中にも日本的なものが育ってきた。天
心はその日本的な精神文化を茶で象徴したようだ。英語で書かれその主たる目的は日本の
精神文化の世界への紹介である。茶室も見方によれば鴨長明の方丈の庵のような性格が
ある。社会のややこしい束縛から解放され本来の人間に戻る空間と言って良いだろう。単身
赴任で関西に仮の宿りを定め、そこを中心に仕事をした。出張も多かった。その出張が早々
に片づいてしまい時間を持て余すことになった。大きな鞄をぶら下げてふらふら歩いていると
無名(失礼、ただ知らないだけの)寺があったので、ぶらりと入って参拝した。丁度そこで茶会
が行われていた。何がきっかけかはっきり覚えていないが、よろしかったら、一服いかがです
かとでも誘われたのであろう、その茶会の招かざる客になってしまった。地獄で仏との喩えが
適当かわからなが、作法もまるで分からぬまま、お茶と茶菓を頂いて退席した。中年にさしか
かったやぼなおじさんの風体のサラリーマンがお寺に来たのだから元気づけてやろうという
一瞬の気持ちが茶会の主人によぎったのかもしれない。全く一期一会の出来事であった。誰
かは知らないがご婦人方の茶会であった。黒一点の冷や汗談義かもしれないが、今も忘れ
られず本当に有り難いお接待であったと思っている。