ばからしい特許

2010/1/19

ばからしい特許

唯一特許に関する洋書を購読した記憶がある。洋書と言えば、東京の丸善や紀伊国屋に行

って立ち読みするのが楽しかった。しかし、新本を買うゆとりはなかった。そこで、洋書の技

術書は神田の明倫館書店で古本を買うことにしていた。洋書のカタログが手にはいると、安

価な本を選んで米国から通販で取り寄せたこともあった。DOVER とかMITプレスはペーパー

バックの科学・技術書を出版していた。日本の大学出版部等は売れないことを前提にしてい

るのか、ソフトカバーの本が少ないように思われる。古くても価値のある書物は、紙質を落と

しソフトカバーにしても、書店に並べる価値があるのではないか。 確か、洋書の輸入には関

税もかからず、何冊かまとめて購入すれば洋書店で買うより安くついた。そこで、タイトルに

釣られて買ったのが、うすうす覚えていた題名の "Absolutely Mad Patents"。ともかく、特許

登録された、奇抜で、あきれて、ばからしい特許に関して書かれた本であった。そこでネット

検(WEB全体)してみたら正式書名は "Absolutely Mad Inventions". であった。Patentsは特

許でInventionsは発明で共通点はあるが意味が異なる。要約は以下の通りであった。

Alford Eugene Brown, Harry Allen Jeffcott著 - 1970 - Humor - 125 ページ
Hilarious but real inventions including edible tie pin, automatically tipping hat, metal locket for storing chewed gum ? all patented

ところが、「Absolutely mad inventions - Google ブック検索結果」でその本が出てきたのでび

っくりした。現在もこの本の改題版がDOVERからでているようだ。ページをめくると記憶のあ

る画像が現れた。一般人からみれば、奇抜で、あきれて、ばからしい特許かもしれないが、

発明した本人からみれば、真剣な労作である。その、ギャップが笑えてくるのである。まさか、

こういう特許を例に特許出願を鼓舞する必要は無いだろうが、こういう特許が登録されている

のだから自分の特許にも自信は持てると思えれば予想外の読書の効用といえるだろう。自

分にとっては無意識下にその効用があったようだ。振り返ってみると、ペースメーカーや温水

洗浄便座等もそれが市場に出て普及する前はだれもあてにしなかったであろう。自分の開発

した集積回路が温水洗浄便座に採用された事を知って当惑したのも事実である。まったく予

想外の用途であった。そんな縁でそのメーカーに出張する機会もあった。残念ながら、特許、

開発アイデア、失敗談等聞くゆとりが無かった。自分が現在注目するのは以下の技術(特許

検索結果):

出願番号 : 特許出願2009-56750 出願日 : 2009年3月10日
公開番号 : 特許公開2009-165481 公開日 : 2009年7月30日
出願人 : 国立大学法人京都大学 発明者 : 山中 伸弥
発明の名称 : 誘導多能性幹細胞からの体細胞の製造方法

今日の技術進歩は早い。革新的な技術が出るとその直後は競争も熾烈になるが、大きな進

歩も生まれる。半導体の世界がその例であろう。半導体の製造方法という表現は耳になじん

でいた。「体細胞の製造方法」という表現は新しい発見であった。生き物、素材等を扱う産業

が一次産業、一次産業のOUT PUTの加工(非生物)を扱うのが二次産業、役務を扱うのが

第三次産業とは何となく理解できる。当該特許技術によれば 誘導多能性幹細胞という原料

から体細胞が製造できる、その手段を特許権として主張しているのだろう。製造という概念が

生物の基礎部品である生きている細胞にまで拡大したのかも知れない。俺の臓器はMADE

IN JAPANで○○社製だと言うような時代が来るかもしれない。その頃は、もはや、一次、二

次、三次という産業分類は意味を失い、一次X二次X三次=六次産業が当たり前になってし

まうのかも知れない。