2010/1/12
製図道具
物を作る技術の現場では図面が不可欠である。アイデア段階では図面は手書きで済ませる
が出来るが、図面で他者に仕事を頼む場合は綺麗で、正確な図面が必要である。大学でも
製図の教科や実習等があったが余りはっきりした記憶がない。製図板とT型定規、その他
細々とした製図用具もあった筈であるが卒業後はほとんど使っていない。自宅新築時は間取
りの図面をあれこれ描いた。大工さんは現場の仕事は、ベニヤ板に墨で書いた簡単な間取
り図一枚で済ませていた。大体個人で出来る規模の図面は頭に入れておけるのがプロの能
力のようでもあった。自分が現役時代に設計したVIF用の集積回路は300余の素子数であっ
たが、当時は回路図が大体頭に入っていた。出図の回路は手書きであった。パターン設計
CADが導入されつつあった。それ以前はパターン設計も手作業で行っていた。回路シミュレ
ーションがSPICE等で行われるようになると回路図の作成もCADに乗るようになった。手作
業による設計はそれなりのリアリティを感じたが、設計のほとんどの作業が大型コンピュータ
の上でなされるとリアリティを失ってしまったように感じた。一方、カタログ等の技術文書を作
している同僚は相変わらず手作業の仕事が多かったようだ。たまには、用事で仕事の現場
を覗いたが、ロットリングの製図ペンやステッドラーの文具を使っていた。プロが使うドイツ製
の道具である。今調べて見たらあるWEB SHOPのロットリングの解説に、「現在では、ロット
リングといえば製図ペンの代名詞といわれるほど、プロのデザイナーや設計者を中心に、高
信頼を得られている。その理由は、操作性、線の精密度、書き味といった長い歴史に培われ
た技術力にあるといえよう。」とあった。やはり、プロという自信をもって仕事をするにはそれ
にふさわしい道具を使うべきだという意識が働くのではないか。一枚のカタログも道具に負け
ないいい仕事をするぞと成された無名の作品として自己の存在を訴えているのかもしれな
い。自分は大学入学後長髪にしたと記憶している。それを契機に理容店へ行くようになった。
理容師をしている同級生に使っているカミソリはどこのものかと聞いたら、ゾーリンゲンのも
のだと教えてくれた。ゾーリンゲンと言えばドイツの有名な刃物産地であった。人口は約16万
5千人。(2003年末)との事。世界に名を売るにはそれなりの技術の蓄積と実績があるのだ
ろう。職人と道具は深い関係があるとつくづく思う。それでは、技術者は職人なのか。一人の
人間も他人による規定と自分による規定は別である。いずれにせよ、自信と誇りと責任は仕
事を持つ人が備えるべき徳性ではないか。信頼できる道具は信頼できる仕事を支える事が
出来るという話しもその道具を使って見ないと分からない。