法務

2010/2/1

法務

何か理工系の人間には縁が無く近寄りがたいイメージを法務という言葉に抱く。しかし、一時

は弱い者の側に立つ弁護士という職業にもあこがれた事もあった。会社では生涯現役で技

術の仕事が出来ればと望んでいた。外国では生涯技術者という人も多いようだ。日本の場合

は経験を積んで部下を持つ頃になると管理職となり日々の雑用に追われるようになるのが

一般的だ。そうしてついに役職定年の年齢になると肩書きだけは残してもらえるが、部下は

いなくなってしまう。自分が法務、知財の人たちと本格的におつき合いを始めたのが丁度そ

の頃であった。契約についても基本のきの字も分かっていなかった。ともかく、契約案を検討

し、法務にコメントを求める。いつも適切なコメントを頂いた。要は法務の面からはアドバイス

をするが、契約の具体的な内容までは深入りしない場合が多かった。実はその法務担当は

自分が入社した頃、技術者として製品開発に従事していた。何と自分がその先輩が作成した

試作品を回路技術者の卵として評価した事があった。その先輩は他の事業所へ異動となり、

それ以来交渉が無かったが奇しくも再びお世話になる事になった。おつき合いをするうちに、

法務という固いイメージの下に技術者精神を秘めていたのではないかと思った。その気持ち

は良く分かる。元技術者としては現役技術者にチャレンジに値する課題をテーマに挑戦して

貰いたいという気持ちはいつも持っているだろう。もはや技術の現場を直接動かすことはで

きない。しかし、より高度の面から技術の現場を指導する事は可能だ。更に言えば、やって

はならない事とやらなければならない事を指摘せねばならないという辛く・厳しい役割もある。

いつもニコニコしていられる立場ではない。ある時、その先輩から電話を受けた。烈火の如

きお叱りであった。いつもはメールで済んでいた事であるが、こんな重要な事をメールで済ま

せてはならない。直ぐに来いという内容であった。開発部門としては無理しても危なそうな仕

事に飛び付く事がある。実際は既に飛び付いていたのだ。万一の場合を想定するとリスクを

伴う仕事にはそのリスクへの対応をしなければならない事は当然なのだが、そのチェックを

通り抜けて事が進んでしまう場合がある。ともかく、あの激怒に押されて、事業部門も体制を

整える方向に向かった。今日、民生品といえども、生命や財産に大きな影響を与える製品が

多い。法務としては製造責任(PL法)というシグナルが閃いたのではないかと思った。若い技

術者はそこまで配慮できる経験がない。苦い失敗をした技術者はそれを積極的に次世代に

引き継ごうともしないし、それをさせる体制も整っていない。そういう、ややもすれば見逃され

る問題がすき間を通り抜けて市場で問題が起こるのも事実であろう。そのような問題の解決

は最早個人に任せる訳には行かない。そう言う点でISOとかQSは一定の効果があるのでは

ないかと思う。トヨタはQS以上に品質に厳しいからQSの認証は受けず自社スタンダードで行

っているという話を聞いたことがある。第三者機関の監査を受けるという事はそこにフィード

バックが入るという事でもあろう。ともかくISOとかQSもトップのが主導し、トップが判断・実行

するという西欧流スタンダードが建前である。トヨタ車のリコールのニュースを聞いて昔の事

を思い出した。