2010/5/13
昭和萬葉集:民衆の声
■石投げて迫るを追へどつきつめて信じにしこの民衆のこゑ
昭和萬葉集13巻。安保改訂阻止へ 警官の歌の区分にあった短歌である 昭和35~38年
の歌を納めている。安保反対を叫んで石を投げて迫ってくるデモ隊を阻止する側の立場の警
官が詠んだ歌である。機動隊員なのだろうか。ヘルメット、防護マスク、盾、警棒という完全
武装の姿を思い出す。方や民衆は丸腰で武器は自分の身体と石ころ程度であった。そのデ
モの状況の中にいるのが、警官であり、デモ参加者であるが両者とも歴史の流れの中で、た
またまそこにいる存在になっていたからに過ぎないのかもしれない。過激なデモ場面。機動
隊員ならば気力・体力も充実している筈だ。デモ参加者も同じような年齢だだろう。<つきつ
めて信じにし>とはどういう意味なのか。更に切り込むと<つきつめて>とはどういう意味な
のか。このデモの現場で歌を詠むゆとりは無いであろう。後に自分が職務としてデモ隊と対
峙した場面を客観的冷静に振り返った事を<つきつめて>と表現したようだ。デモ隊参加者
の声が本当の民衆のこえではないか。作者もふと自分も民衆の一人なのだと思ったのだろ
うか。当時自分はまだ学生の身分で安保改訂という政治的状況も十分理解できていなかっ
た。しかし、心情的には民衆の立場にあったように思う。昭和35~38年というと敗戦から十
五年余が過ぎて社会も安定してきた。今、思うと安保改訂阻止が、この安保条約の改定が安
定してきた社会の否定につながるのではないかという民衆の危機意識の顕在化と行動化で
あったように思われる。改訂安保条約は強行締結され、それによって種をまかれた日米関係
は至る所に根を張ってしまっている。ともかく、今日の日本ではデモは過去のものになったよ
うな印象を受けるが新興国ではまだまだ盛んである。デモも歴史の歯車の一つではある。日
本もデモで多くを失い多くを学んだのかもしれない。