堕落論のこと

2009/4/6

堕落論のこと

日本が敗戦から立ち直り、ようやく過去の歴史を正視する機運になった頃、ある総合雑誌の

特集で坂口安吾の堕落論に出会った。青空文庫で再度読み直してみた。その最後の二行

に、「堕ちる道を堕ちきることによって、自分自身を発見し、救わなければならない。政治によ

る救いなどは上皮だけの愚にもつかない物である。」とある。自分も、色々な局面で落ち込ん

だ事があり、そのとき最後に落ちる所ところまで落ちればその下は無いのだと言い聞かせた

事もあった。朝の来ない夜は無いのだ。凡人は尻まくりの覚悟程度かもしれないが。戦争と

は政治の一形態だという見方もある。あの戦争で落ちるところまで落ちて自分自身を発見

し、自己救済を成し遂げた。終戦直後にこの新しい自己再生の原理を示したことに堕落論の

すごさがあるのであろう。今、世界が、日本が直面している課題は政治が解決してくれるので

あろうか。国やぶれて山河あり...。とことん落ち切れない所に現世の深い悩みがある。頭

の真上から強光で照らされれば足下に影が出来ない。自分の影を見て恐れ、その影で恐れ

ている自分を発見する必要はない。坂口安吾の堕落とは諸々の影を断ち切って自己が確実

に残っていることを実感して自分の足腰で立ち上がる事だと言っているように思われる。