桑つみ

2009/5/19

桑つみ

群馬県の養蚕という産業も過去の遺産となりつつある。蚕が小さいときは桑の葉を小さく刻

んだ物を餌として与えた。やや大きくなると桑の葉を摘んだ物を与えた。繭になる前の段階で

は枝に葉が付いたままで与えていたようだ。要するに蚕が成長する段階により食べる量も多

くなり、食べる能力も大きくなる。大人だけでは桑の葉つみが間に合わなくなると桑畑での桑

つみにかり出された。両手の人差し指に桑つみ用の小さな刃の付いた指ぬきのような小道

具をはめて、これで桑の葉柄を切って葉を竹かごの中に詰め込む。ぎっしりとかごがいっぱ

いになるまでが一区切りの仕事になり、みんなが競争でつんだ。あまり愚痴も言わずに桑つ

みの仕事をした。なぜなら、家に帰ってつんだ重さを秤で量って自分のした仕事量に応じてお

金をもらえたからである。たいていの農家の子供はこのような経験をしたのではなかろうか。

知らず知らずのうちに自分の仕事の意味と価値を理解したのではなかろうか。年令が違って

も、負けるものかと頑張る根性も身に付いた。残念だが稚蚕のはきたてから繭の出荷までの

一連の作業を全部行う事はなかった。要するに農業者としてではなくお手伝いの範囲の仕事

しかしなかった。これは自分の体験した全ての農作業に共通する。自分の親や祖父母が農

業にかけた情熱は日毎に疎くなっている。湿球が割れた養蚕用の乾湿計を単なる温度計と

して使っているが、よく見るとその数値表に蚕の適湿が記入されていた。祖母は次ぎにやる

べき仕事が見えないようではだめだと常日頃子供達を叱咤していた。決して優しいおばあち

ゃんのようではなかった。早くに夫を亡くした祖母の両肩に家族を支える養蚕の仕事の重さ

がずっしりとのしかかっていたのであろうと今となって思う。