虚数:いとしきもの
20102/23
虚数
小中の算数から高校の数学になった頃出合った不思議な数である。二乗すると-1という数
である。普通の数は二乗すると負の数にはならないので、仮想的に作った数である。従っ
て、imaginary number と英語で表すと納得する。西洋の数学を導入した明治の頃に苦心し
て漢訳した数であったのではないか。石原純は和算のレベルの高さは評価していたが、その
論理性・伝承の閉鎖性等を指摘していた。ともかく虚数は数の概念の拡大であり、一度その
ような概念の拡大が行われると実用上も大きな利便性を産む。方程式で書けばX*X+1=0の
解がROOT(-1)=i という事になる。オームの法則は中学生の頃に学ぶ。電流、電圧、抵抗
の関係を与える関係式である。この式は直流では成り立つが交流では正確には成り立たな
い。交流を表すには三角関数が必要になるが、まだ高校の段階では数学と工学が結びつい
ていない。電気工学の基礎となる交流理論を学んで初めて交流のオームの法則の意味が理
解できる。それには、抵抗という概念を拡大する必要がある。純粋な抵抗に電流が流れれ
ば、そこでエネルギーが消費され熱となる。しかし、交流では、エネルギーは消費しないが電
流の流れに影響する、コンデンサ成分とコイル成分がある。かくて、純粋抵抗成分とコンデン
サ成分とコイル成分とを一つの素子としてインピーダンスという概念に拡大する。そうすると、
拡大したオームの法則が成立するようになる。このインピーダンス成分に虚数iを使用する複
素数という数の演算で交流の電圧、電流の関係を求める事が出来る。おそらく、虚数という
概念は数学で先に生み出されたが、それが技術の方面に利用されて、純粋数学以上に実用
工学上の効用をもたらしたのではないかと思う。初期の電気利用は電池による直流が主体
であった。発電機が発明され、交流送電が行われるようになって電気の利用分野は急激に
拡大した。そうして、主に電気を動力源等につかう強電分野が栄え、その後は電気の元とな
る電子を使うという概念の弱電分野が大きく成長して今日に到っている。蛇足であるが、電
気工学ではiで電流を表すので虚数をjで表す。思えば高校の頃に学んだ虚数には大変お世
話になった。会社の初期の大型計算機で、プログラムカードにFORTRANで書いた計算式も
トランジスタのインピーダンスを計算するものであった。虚数をjは交流の位相をあらわし、素
子内部の位相遅れが大きいと動作が不安定になり発振を初めて、これに悩まされていたこと
もあった。実社会においてもいくらポテンシャル(電圧)を上げても、抵抗勢力が大きいとうまく
物事が進まない。また、時にはちょっと位相がずれたi勢力も必要なのかもしれない。視点を
変えて過去を振り返るという事にも意義があるだろう。