方丈記切読13:いとしきもの
2010/3/14
方丈記切読13
「また治承四年卯月廿九日のころ、中の御門京極のほどより、大なるつじかぜ起りて、六條わたりまで、いかめしく吹きけること侍りき。三四町をかけて吹きまくるに、その中にこもれる家ども、大なるもちひさきも、一つとしてやぶれざるはなし。さながらひらにたふれたるもあり。けたはしらばかり殘れるもあり。又門の上を吹き放ちて、四五町がほど(ほかイ)に置き、又垣を吹き拂ひて、隣と一つになせり。いはむや家の内のたから、數をつくして空にあがり、ひはだぶき板のたぐひ、冬の木の葉の風に亂るゝがごとし。塵を煙のごとく吹き立てたれば、すべて目も見えず。おびたゞしくなりとよむ音に、物いふ聲も聞えず。かの地獄の業風なりとも、かばかりにとぞ覺ゆる。家の損亡するのみならず、これをとり繕ふ間に、身をそこなひて、かたはづけるもの數を知らず。この風ひつじさるのかたに移り行きて、多くの人のなげきをなせり。つじかぜはつねに吹くものなれど、かゝることやはある。たゞごとにあらず。さるべき物のさとしかなとぞ疑ひ侍りし。』」
竜巻、ダウンバーストのことであろう。「つじかぜはつねに吹くものなれど、かゝることやはあ
る。たゞごとにあらず。」、「かの地獄の業風なりとも、かばかりにとぞ覺ゆる。」と、特別に大
きな竜巻であったようだ。「さるべき物のさとしかなとぞ疑ひ侍りし。」何か、悪いことの予兆と
思ったのか。さとしとは何かを警告していることの意味であろう。ところで「さるべき物」とは何
か。何か具体的なものを暗示しているのか。地獄の業火・業風は自然現象を更に強めたフィ
クションだろうが、そのフィクション以上と感じた。同じ様な、フィクションを上回る自体が現在
でも多発している。当時は、竜巻の原因は理解できず、何か人知で想像できない存在がさる
べき物という事だったのか。