方丈記切読18:いとしきもの
2010/3/19
方丈記切読18
「その時、おのづから事のたよりありて、津の國今の京に到れり。所のありさまを見るに、その地ほどせまくて、條里をわるにたらず。北は山にそひて高く、南は海に近くてくだれり。なみの音つねにかまびすしくて、潮風殊にはげしく、内裏は山の中なれば、かの木の丸殿もかくやと、なかなかやうかはりて、いうなるかたも侍りき。日々にこぼちて川もせきあへずはこびくだす家はいづくにつくれるにかあらむ。なほむなしき地は多く、作れる屋はすくなし。ふるさとは既にあれて、新都はいまだならず。ありとしある人、みな浮雲のおもひをなせり。元より此處に居れるものは、地を失ひてうれへ、今うつり住む人は、土木のわづらひあることをなげく。道のほとりを見れば、車に乘るべきはうまに乘り、衣冠布衣なるべきはひたゝれを着たり。都のてふりたちまちにあらたまりて、唯ひなびたる武士にことならず。これは世の亂るゝ瑞相とか聞きおけるもしるく、日を經つゝ世の中うき立ちて、人の心も治らず、民のうれへつひにむなしからざりければ、おなじ年の冬、猶この京に歸り給ひにき。されどこぼちわたせりし家どもはいかになりにけるにか、ことごとく元のやうにも作らず。ほのかに傳へ聞くに、いにしへのかしこき御代には、あはれみをもて國ををさめ給ふ。則ち御殿に茅をふきて軒をだにとゝのへず。煙のともしきを見給ふ時は、かぎりあるみつぎものをさへゆるされき。これ民をめぐみ、世をたすけ給ふによりてなり。今の世の中のありさま、昔になぞらへて知りぬべし。』」
切り読みなので、前後のつながりに苦労する。新都建設現場の様子。聞き書きのようだ。「元
より此處に居れるものは、地を失ひてうれへ、今うつり住む人は、土木のわづらひあることを
なげく。道のほとりを見れば、車に乘るべきはうまに乘り、衣冠布衣なるべきはひたゝれを着
たり。」今日だったら、どうだろうか。地元は大歓迎かもしれないが、中央は居心地が良いの
で、そこに居座るのであろうか。思うに、日本の首都もあちこち転々としていた。人身一新に
もなるだろう。当時の遷都実施の理由は何だったのか。「なかなか やう(様) かは(変)り
て、いう(謂う) なる かた(方) も 侍りき。」意味は?伝聞でぼかした表現か。「はこびくだ
す家」とは。家を解体して運んだのか。リユースハウス。「これは世の亂るゝ瑞相とか聞きお
けるもしるく」瑞相とは吉兆。世が乱れるのは瑞相なのか。逆形容の皮肉か批判か。結局、
その話をした某氏は居心地は悪いが建設中の新都に戻ったのか。昔は、民の竈の煙を見
て、国を治めた。御殿も茅葺きの質素な物だった。今の世はどうだろうか。長明さんの視点
は現在にも通用するようだ。