赤紙をもらって工場へ
2009/5/7
赤紙をもらって工場へ
第二世代のVIF-ICの開発を完了してから、それを量産に移すのにも苦労した。上司がバラッ
クで自動測定器を作っていた。動きそうだということでそれを渡されて量産用測定器を作って
くれと言われた。上司は優秀な技術者で測定器のコンセプトとか回路図はほとんどが頭の中
にしかない。渡された現物と概要図面だけで作成するとなると結局上司の辿った筋道を辿る
必要がある。基本コンセプトは渡された資料をかみ砕いて何とか理解できた。その難関が手
動の市販の高周波アッテネータにリードリレーを組み込んで電子制御できるように改造する
事であった。これに制御シーケンス回路と判定回路を取り付ける。測定スタートボタンを押す
と測定が開始して良否の判定で測定器が停止する。測定器が完成して、何度も調整やチェッ
クを繰り返してようやく工場への導入になった。しばらく測定器が稼働したところで、故障だか
ら直ぐ来てくれと製造技術の部長から直接故障の連絡書を渡される。これを赤紙と呼んでい
た。生産第一で開発の仕事も投げ出してタクシーで工場に駆けつける。大半がリレーの故障
であった。当時は電子アッテネータの市販品が無かったので手動品を改造していたわけだ
が、そのアッテネータの中にリレーを詰め込むのはむちゃであったし、交換も大変であった。
この苦労は上司にも伝わっていた。あるときタケダ理研の人が来ているから専務室に来いと
連絡があった。話が測定器のリレーに飛んだようだ。名刺を頂いてびっくりした。何とタケダ
理研創業者の武田博士であった。名刺の肩書きの博士がまぶしかった。実は工場で使って
いるリレーが頻繁に故障して困っていますと話をした。テスターに使うリレーはあらかじめスク
リーニングしていますという話をされた。スクリーニングを推奨されて認識を新たにした。その
後は工場に信頼性の良いリレーを手配させて修理も工場に移管した。テスターメーカーの社
長に直々に信頼性のイロハを教えられた貴重な体験であった。今にして思えば一個のICの
測定に十数回のリレーの切り替えを行う。一日に数千個の測定をこなすとリレーはそう長い
期間もなく数十万回か数百万回の断続を繰り返し寿命を迎えることになる。しかし、そういう
ゆとりもなく目先の仕事に追われていたのが現実であった。ともかく製品に関する揺りかごか
ら墓場までの仕事に携われたのは技術者として幸運であったと思う。