« 2010年11月4日 | メイン | 2010年11月6日 »

2010年11月5日

2010年11月 5日 (金)

読みかじりの記:二宮尊徳の仕法と仕分

2010/11/5

読みかじりの記:二宮尊徳の仕法と仕分

二宮尊徳という名前にはあまり馴染みがない。二宮金次郎という名前にはあの薪を背負いながら本を読んでいる像と共に馴染みは残る。しかし、戦前とは異なり、二宮金次郎について事細かに教えられたりした記憶もあまりない。学校の校庭の隅に立っていた、二宮金次郎少年の像もいつしか無くなり、台座だけになっていたと思っていたら、いつの間にかその台座の上に二宮金次郎少年の像がまた立っていた。書肆いいだやで閉店直前に買った古本の「二宮尊徳」(岩波新書:奈良本辰也著)を最近拾い読みした。

著者があとがきで尊徳には敬遠したい気持があると書いているが、世間一般もそう思っているように感じる。あの勤勉には勝てないという気持が誰にもあるのだろう。著者は歴史家としてもう一度、二宮尊徳の実像に迫ろうとして本書の執筆をしたようだ。著者は明治期の国定教科書に二宮尊徳を加えた理由として井上哲次郎のことばを引用している。それによれば、二宮尊徳が国民の手本となるモデルとして最も無難であったからである。また、国策として国家に反発することなく、国家的事業を率先して行った手本を示すという面もあったようだ。見方にもよるが、それこそ二宮尊徳の偉大さのたまものだったのかもしれない。国家の教育理念として、農民上がりの一実際家二宮尊徳を中心に据えること自体が当時の日本の実状を示していて痛快に思われる。吉田松陰を候補に上げる人もいたが結局それは実現しなかったとも紹介されている。

著者は二宮尊徳が、祖父、父等と金次郎の関係を歴史的にたどり、二宮尊徳という人間像が形成されるまでを解明して興味深い。なぜ二宮尊徳が多くの農民から慕われるようになったのかという点に関しては、当時の封建社会の知られざる秘密を掴んだからその矛盾の解決ができたのだろうとのべている。その秘密とは自然の法則と人間社会の法則。著者は二宮尊徳に近代社会の萌芽を読みとろうとしているようだ。当時の状況は社会的には江戸幕府も長年の積弊で制度崩壊寸前で、自然面では干魃、浅間山の噴火等の天変地異で農業の不振が続いた。このような大きな問題を解決する方法論を二宮尊徳は実践の中で鍛え上げてきた。これを二宮尊徳は仕法とよんでいたようだ。

今日的に言えば、二宮尊徳の仕法とは社会や財政や民生の再生プログラムであり、巨大な社会プロジェクトであった。二宮尊徳がその仕法を研究したのが今日風には社会再生プロジェクト企画書で、その作成に数年かけている。そのプロジェクトの実際の期間は十年から二、三十年かかるという見積もりの巨大プロジェクトである。このようなプロジェクトに一生をかけた二宮尊徳の姿はあの二宮金次郎少年の像からは想像もできないことであった。

ところが、今日も状況は二宮尊徳が生きた時代に似て、財政だけではなく、社会の基盤となる制度そのものがぎくしゃくして、国民の不信感が募り、目先の問題を処理する為か、パフォーマンスの為か、国を筆頭にあちこちで仕分けが行われている。二宮尊徳が仕法の最初に行うのが人心の安定と人作り。プロジェクトの意義と重要性を理解できなければ誰も従わない。せいぜい面従腹誹で物事はうまく進まない。言葉は似ていても、仕分けは最終的には単に予算という水道栓を出口の前で調整するだけに等しい。井戸を掘り、水路を拓くという再生に必須だが地味な仕事は誰もしようとしない。ここで悲観していても未来はないだろうが...。あの少年二宮金次郎は今でさえ日本中あちこちにいるだろう。彼らは仕法と仕分けのどちらを選ぶだろうか。そんな事を考えるゆとりはないのであろうか。今こそ、第二、第三の二宮尊徳が現れる事を願わざるを得ない。

追記:戦後、破綻した会社を招かれて再生させた名経営者も何人か思い出す。再建を任された経営者にはやはり、何かのオーラがある。そのオーラの源は何か。きっと人を動かす力なのだろうと思うが、力という言葉も抽象概念で、心眼を通さないとその本質は見えない。かつて農民は縄ない、俵編みをいやと言うほどやって来た。二宮金次郎の偉大さはこのような平凡な農民を超えて、人生後半に疲弊した社会・組織の再生を成し遂げた事にあったと今更ながら理解したところだ。また、二宮尊徳の考えに共鳴した多くの後継者・実践者がいることも知った。これが、二宮尊徳という人物が歴史の中で孤立せず、社会的に評価されている点でもあるようだ。

検索サイト

NANDA?⇒物臭検索

  • ラベル(タイトル):最初は何も分からない
    なんだこりゃ?作成当時の記憶

エネルギー関係

ウェブページ

更新ブログ

PHOTO2(写真集)

  • Iob_fujijyuukouentotu
    たまたま出会ったもの2

PHOTO4(写真集)

  • Iob_minitomatodaruma
    果樹・野菜・花等

PHOTO5(写真集)

  • Iob_senteihasami_funsitu_sabi
    現在使われなくなった機器、農具、ガラクタ等。

PHOTO6(樹木等)

  • Iob_sendan_kiru_2013
    樹木の縮伐カット&トライetc

PHOTO7(写真集)

  • Iob_kaiko_ga_gazou
    BLOG関連写真2
フォトアルバム

MIKAN KUN

  • 赤城連山MAP
  • Fight_Fukushima
  • ISESAKI_PIGEON
  • MIKANKUN

Copyrighit

  • © Copyright 2006-2024  af06.kazelog.jp  All rights reserved.

健康関係:リンク&検索等

Favorites2

Favorites

Favorites3

Favorites4

やさしい科学・SCIENCE

  • 日経サイエンスのウェブページ
    「日経サイエンス」とは:「日経サイエンス誌は,1845年に創刊された長い歴史と伝統を持つ米国の科学雑誌「SCIENTIFIC AMERICAN」の日本版で,世界の最先端の科学技術動向を日本の読者に届けています。」
  • SCIENCE IS FUN in the Lab of Shakhashiri
    University of Wisconsin-Madison Chemistry Professor Bassam Z. Shakhashiri のサイト

みかん栽培関係情報

ISESAKI  有情2

ISESAKI  有情1

嗚呼 伊勢崎 非情

BOOKS

  • 橋本 英文: 刃物雑学事典 図解・刃物のすべて(1986年 株式会社 講談社 ブルーバックス B-659)
    刃物という視点で多くの事例が取り上げられている。刃のある道具の理解にも役立つ。類書が少なく貴重な一冊。「すべり変形が切断の原理」という考え方で説明している。
  • 沼田 真   : 植物たちの生( 1972年 岩波新書(青版 833))
    「ご要望にお応えしてアンコール復刊(1988年岩波新書50年記念復刊) 地球生態系の中で自然を見直す」(腰巻きのフレーズ)。植物の知恵と戦略に人類は勝てるのか。
  • 出町 誠: 14_NHK趣味の園芸:よく分かる栽培12ヶ月  カキ(NHK出版2007年)
    初心者向け柿栽培参考書(新版)。旧版と比較すると楽しい。
  • 中村三夫: 13_NHK趣味の園芸:作業12ヶ月  カキ(NHK出版1996年)
    初心者向け柿栽培参考書(旧版)。新版と比較すると楽しい。
  • 山科正平: 12_細胞を読む   電子顕微鏡で見る生命の姿
    細胞はどんな部品からできているのか。そんな疑問に答えてくれる一冊。何事も形を見るのが第一歩。μからÅオーダーの世界で、細胞をメスで解剖するように、電子顕微鏡というメスで解剖して見せてくれるので興味が尽きない。
  • 柳田充弘: 11_細胞から生命が見える
    著者の専門は分子生物学、細胞生物学。普段生物を考えても細胞レベルで止まってしまう。その細胞の中で色々な分子が働いている。細胞こそ生命の基礎だが、その細胞の中の動きを知るのに最適な一冊。疑問の発端はなぜ発根剤が効くのかということ。薬剤が細胞膜を通過して細胞内で分子と分子が作用するイメージができた。本書でできた細胞のイメージは小さな無数の穴が空いた水分が充満したヨーヨーのようなもの。そのヨーヨーの中に分子部品が詰まっている。細胞自体もタライの中のヨーヨーのように浮かんでいる。細胞図面の空白部は真空でなく水分だ。細胞の内外に水がないと細胞は生きられない。水が生命のゆりかごだ!
  • 野口悠紀雄: 10_ホームページにオフィスを作る(2001年 光文社)
    ITが輝いた時代の作品。HPの活用法は参考になる。参考:url=http://www.noguchi.co.jp/(野口悠紀雄 ONLINE)
  • 小池洋男 編著: 09_果樹の接ぎ木・さし木・とり木(農文協:2007/3/31第1刷)
    やや専門的であるが、実務専門化が分担執筆しており、その場で役に立つ一冊。
  • ノーバート・ウィーナー(鎮目恭夫訳): 08_サイバネティックスはいかにして生まれたか(みすず書房1956)
    情報と通信という現代社会に不可欠の基礎的な学問を作った著者の自伝とそれを通した科学史
  • 沼田 真(編): 07_雑草の科学(研成社1979)
    雑草を多面的に解説し防除の基礎も述べる

外国の博物館・美術館 外国語・国際関係(リンク)

TOOLS

地域産業・機関

地域興し関連情報

MEMO_TL_TEST

  • TOP PAGEの 「アクセスランキング(2015/6/8より表示再開)」へ飛ぶためのラベル
  • TEST END
    TEST_H23/10

アクセスランキング

リンク:ページ先頭へ飛ぶ

写真集へのリンク

MEMO 海外の博物館・美術館

  • https://www.artic.edu/collection?place_ids=Japan&page=6
  • 項目のタイトル2
    POST IT :ブログ画面への張り紙に使える。
  • TYPE LIST事始め
    2010/8/4:MEMO等の表示に使える。 農作業で気になる自戒の言葉 ■畑の石ころはいつまで経ってもても石ころ(早く拾って片づけよという意味か)。 ■同じ石を二度拾うな(やってみると難しい)。 ■手ぶらで歩くな。 ■三つ先のことを読め。 ■適当な観察。 ■空を見よ(気分転換、休憩、天気を読む、腰曲がり防止)