2010/8/21
雑草句録:手仕事
■手仕事や夜の畑に虫すだく
このような情景は絵にはならない。音の世界だ。がんがんと増幅された人工音の対極にある自然音だ。ところで、あの数㎝の虫が10mも先に音を届ける必要があるのか。多分、人間の聴力が良すぎるのではないか。
虫の世界は別な論理が働いているのか。雌は最も大きな声で鳴いている雄に向かって行くのであろう。あえて、その距離を知ろうとするつもりはないが、雌の耳元?それとも足元が雄の送る音波の震動でしびれると、そちらに引きつけられてゆくのかもしれない。
追記:ネット検索で見た、AFPが伝えた英科学誌サイエンス(Science)に発表された最近の研究(動作反応式赤外線カメラ96台とマイクを使ったとある)によると、「大きな体格と生命力の強いオスが成功する上では、鳴き声の善しあしはそれほど関係ないようだ。」との事でコウロギの鳴き声ってどういう意味があるのかますます分からなくなった。ところで、前記の研究はコウロギの鳴き声も一対一で特定したのであろうか。鳴き声を特定するには相当多くの指向性マイクを取り付けないと困難のように感じる。
25万時間の記録映像を分析したらしいが、カメラ1台当たり約1600時間、108日となるが、昼は鳴かないとすると、その倍の200日位観察したのだろうか。外国のコウロギは半年以上鳴くのか(英文によれば二世代とある)。動作反応式赤外線カメラがどんな性能のものかもはっきりしない。電池やメモリーの消耗を防ぐため、赤外線を使用してコウロギが動いた事を検出して録画を始める方式なのか。ところで、小さなコウロギの動きを検出する感度と指向性は十分なのか。他のコウロギの鳴き声を聞いた結果、コウロギが動き出すとすると、観察には他のコウロギの鳴き声の刺激が無視されるのではないか。逆説的には、コウロギが何故鳴く必要があるのかが理解できない。「大きな体格と生命力の強いオスが成功する上では、鳴き声の善しあしはそれほど関係ないようだ。」という文言は推測に過ぎないだろう。コウロギの雄が鳴くのは雌にその存在位置を伝えるシグナルであるという事は否定していないようだし、そんな陳腐な研究はセンセーショナルにならない。真偽のほどは発表された内容を直接当たるべきかもしれないが、待てよと思った。
念のためネット検索で調べてみた。要約以上を読みたかったら記事を買って下さいという方式に歯ぎしり。税金でした研究なら全部公開すべきでは?ついでに思わせぶりの要約は勘弁。結論だけは正確に願いたい。
論文の要約とその和文要約は下記の通り。内容がよくつかめない。ダーウィンの進化論の中の自然選択、性選択という枠組みの中の研究のようである。最後の方に結論めいている部分がある:「The factors that predict a male’s success in gaining mates differ from those that predict how many offspring he has.」雄の交尾の成功を予測させる要因は雄がどのくらい子孫を残せるかという予測とは異なる。言い換えると、雄の交尾行動と雄が残す子孫の数は異なる。更に端折って言い直すと、雄がいくら頑張っても残す子孫の数は変わらない。「We confirm the fundamental prediction that males vary more in their reproductive success than females, and we find that females as well as males leave more offspring when they mate with more partners. 」雄は雌よりその生殖行動において変化しやすいという予想を確認し、雄も雌もより多くの相手と交尾した時により多くの子孫を残す事を発見する。コウロギの鳴き声はどこかに消えて抽象的になって、当たり障りのない結論のようだ。AFPが伝えた内容と印象が大きく異なった。どちらとも依然しっくりしない。やっぱり秋の虫は無駄に鳴いてる訳はないと思ってしまう。
以下はリコーの和訳:
『http://www.ricoh.co.jp/abs_club/Science_f/Science-2010-0604.html
Science June 4 2010, Vol.328
野生の昆虫(Insects in the Wild)
昆虫は陸上の生態系において極めて重要であり、生理学と遺伝学の研究におけるラボでのモデル系を提供している。野生集団において、自然選択と性的選択がどのように進化を促進するよう作用しているかを調べる研究は、無脊椎動物では無視されることが多かった。結果として、ラボ環境と自然環境において、いかなる事柄がどのように働いているかに関する我々の理解に隔たりが生じていた。Rodriguez-Munozたち (p. 1269;Zukによる展望記事参照)は、野生コオロギの全集団における生活史、行動、及び生殖の成功に関する包括的モニタリングによりこのギャップの溝を埋めた。遺伝的データーを付加することで、行動がどれほど生殖の成功に影響を与えるているかを評価することが可能となり、そしてオスの生殖の成功が雌のそれ以上に変化することを確認した。(KU)
Natural and Sexual Selection in a Wild Insect Population
p. 1269-1272. 』
以下はサイエンスの本文の要約記事
『http://www.sciencemag.org/cgi/content/abstract/328/5983/1269
Science 4 June 2010: Vol. 328. no. 5983, pp. 1269 - 1272 DOI: 10.1126/science.1188102 |
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Reports
Natural and Sexual Selection in a Wild Insect Population
R. Rodríguez-Muñoz,1 A. Bretman,1,2 J. Slate,3 C. A. Walling,4 T. Tregenza1,*
The understanding of natural and sexual selection requires both
field and laboratory studies to exploit the advantages and avoid
the disadvantages of each approach. However, studies have tended
to be polarized among the types of organisms studied, with vertebrates
studied in the field and invertebrates in the lab. We used video
monitoring combined with DNA profiling of all of the members
of a wild population of field crickets across two generations
to capture the factors predicting the reproductive success of
males and females. The factors that predict a male’s success
in gaining mates differ from those that predict how many offspring
he has. We confirm the fundamental prediction that males vary
more in their reproductive success than females, and we find
that females as well as males leave more offspring when they
mate with more partners.
1 Centre for Ecology and Conservation, School of Biosciences, University of Exeter, Cornwall Campus, Penryn TR10 EZ, UK.
2 School of Biological Sciences, University of East Anglia, Norwich NR4 7TJ, UK.
3 Department of Animal and Plant Sciences, University of Sheffield, Western Bank, Sheffield S10 2TN, UK.
4 Institute of Evolutionary Biology, School of Biological Sciences, Ashworth Laboratories, King's Buildings, University of Edinburgh, Edinburgh EH9 3JT, UK. 』
ここに、論文にリンクしたニュースがあった。
この記事の隣りに、雄のコウロギの鳴き声は若い雄の成長を促すという関連記事があった。一種の物理刺激的な性ホルモンのようで面白い研究だ。要するに種の保存という観点からは優秀な雄一匹だけでは保険にならないという事なのだろうか。この観察はヒトにも通用するのか。